HAIシンポジウム2009開催にあたって

 この10年間で,擬人化エージェントやロボットが一般の家庭にも普及し始めました. 我々が最近よく目にするのは,オフィスソフト上に現れるMicrosoftエージェントや ペットロボットのAIBO,そしてお掃除ロボットRoomba(ルンバ)などでしょう. このように,これまでは大学や企業の研究者などのごく限られた人たちしか接する ことがなかった擬人化エージェントやロボットが,広く一般のユーザと接する, つまりインタラクションをもつ状況で起こる様々な問題に対して,その 工学的解決に挑戦する新しい研究分野が,HAI:ヒューマンエージェント インタラクションです.

 ここで注目すべき点は,HAI:ヒューマンエージェントインタラクションにおいて, “エージェント”とは,擬人化エージェント,ロボット,人間の3つを意味することです. したがって,HAIの扱うインタラクションは,人間-人間の間のインタラクションを含む, 以下の3つのインタラクションを指すことになります.これらの3つのインタラクション 設計の原理を探り,共通した方法論の開発をHAIは目指します.

  1. 人間と擬人化エージェントのインタラクション
  2. 人間とロボットのインタラクション
  3. エージェントを介した人間と人間のインタラクション

 さて,実際に,一般のユーザがエージェントとインタラクションをもつようになると, どのようなことが起こるでしょうか.そこでは,以下のような様々な興味深い研究課題が 考えられます.

  • 人間とエージェントが上手くつきあっていくにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントに飽きないようにするにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントをどのように感じるか.
  • 人間(社会)にエージェントが受け入れられるためには,どうすればよいか.
  • 人間と協調作業するエージェントは実現可能か.
  • エージェントが人間に合わせるべきか,逆に人間がエージェントに合わせるべきか.
  • エージェントを介した人間同士の豊かなコミュニケーションはどのように実現できるか.
  • 家電をエージェント化すると何が起こるか.

 HAIは,上に挙げた課題に対し,工学,認知心理学,社会科学などの様々な分野から 横断的に,その解決に挑戦する新しい研究開発分野です.実際にHAIは,人間とエージェント 間のインタラクション設計と呼ばれるアプローチをとります.インタラクション設計とは, 以下の方法であり,従来のエージェント自身の設計から,人間とエージェントの関係の 設計までの広いスコープをもちます.

  • エージェントの設計
  • 人間とエージェント間でやり取りされる情報の設計
  • 人間とエージェントの関係の設計

 HAIは,まだ確立された統一的方法論があるわけではなく,ケーススタディの段階にある感は 否めませんが,多くの大変興味深い成果が出始めています.そして,HAIは,少なからず閉塞感の ただよう現在の人工知能,ロボット,認知科学研究に対し,これまでにない興味深い研究分野を 提供すると確信しています.また,日本の研究者が世界に発信する新しい研究分野として育つこと を狙っています.

 これまでの,エージェント,ロボット研究・開発には,人間とのインタラクションの視点が不十分 だったと物足りなさを感じていた研究・開発者の方は,ぜひHAIシンポジウムで共に建設的な議論を 楽しみ,HAIという新しい研究フロンティアの開拓に参加されることを願います.

2009年12月4日


小野哲雄 (HAIシンポジウム2009プログラム実行委員長)
角所考 (HAIシンポジウム2009プログラム実行副委員長)