HAIシンポジウム2010開催にあたって | |
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「ヒューマンエージェントインタラクション」をテーマの中心として掲げた シンポジウムとしては日本初,そしておそらく世界でも初めてと思われる「HAI シンポジウム」 の第1回が開催されたのが2006年でした.その後,学会などにおいて「HAI」を冠する セッションが増え,広く研究者に認知されるようになってきました. また,日常生活においても,擬人化エージェントや家庭用ロボットがそれほど珍しい ものではなくなりつつあります. 話は少し変わりますが,最近,大学の講義の準備をしていてK. Lewinの 「場の理論 (Field Theory)」に関する論文を読みました.Lewinは人の心理や行動と生活 空間の 関わりに目を向け,人の行動bは人を取り囲む場eと個人の性質 pの両者 により規定されるとして,人の生活行動をb = f(p, e)とモデル化しました. この「モデル化」は私にはあまりにも当たり前過ぎて,これって何の意味がある のだろかと 少し考えてしまいました.しかし,60年も前に書かれたこの論文がいまだに引用 されているのです. 専門用語や概念は,当たり前のように使われるようになると,それだけで わかった ような気になるのですが,実はまだ十分には理解できていないということがよく あります. 「HAI」という専門用語と上記の「場の理論」を並べてみるとさらにそのような 印象を持ちます. 実際にpもeいまだに十分には解明されていません.「HAI」につ いても, 2006年の第1回のシンポジウムから研究発表と議論が積み重ねられてきましたが, いまだに解明されていないことがたくさんあります.だからこそ今年のシンポジ ウムにおいても, 40件を超える多数の研究発表の申し込みがあったのだと思います. いま,HAIシンポジウムも多くの研究者の認知を得て,第2フェーズへと進 もうとしている のではないでしょうか.基本的な問題意識の共有の時期を経て,インタラクションの 設計原理の本質的な解明や,HAI独自の技術を用いたシステムの構築へと今後向 かっていく のではないでしょうか.しかしHAIが対象とする以下の研究領域に今後も変化は ないと思います.
さらに,研究分野としての「HAI」が学際性を有していることにも変わりは ありません. 上記の研究課題の解明のためには,工学,認知科学,社会科学などのさまざまな分野 から横断的な取り組みが必要とされています.「ロボット」を設計・構築するだ けなら 「ロボット工学」という研究分野だけで十分だったかもしれません.また, 「エージェント」 を実現するだけなら「人工知能」の知見で十分だったかもしれません. しかし,HAIの研究の視点は,人間との「インタラクション」にあります. つまり,人間とエージェントやロボットとの「間」や「関係」が重要となるのです. このアプローチにより研究を推し進めていくためには,当然,これまで既存の分野で 用いられた手法とは異なる,新しい方法論が必要となるでしょう. 従来の,少なからず閉塞感の漂う分野を飛び出し,新しい研究のフロンティアを開拓 しようという熱い思いをお持ちの方は,是非,HAIシンポジウムにご参加いただき, 世界に発信できる新しい研究分野の構築にご協力いただければ幸いです. 2010年12月12日
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