HAIシンポジウム2011開催にあたって

 「ヒューマンエージェントインタラクション」をテーマの中心として掲げたシ ンポジウムとしては日本初,そしておそらく世界でも初めてと思われる「HAIシ ンポジウム」の第1回が開催されたのが2006年でした.その後,学会などにおい て「HAI」を冠するセッションが増え,広く研究者に認知されるようになってき ました.また,日常生活においても,擬人化エージェントや家庭用ロボットがそ れほど珍しいものではなくなりつつあります.

 専門用語や概念は,当たり前のように使われるようになると,それだけでわ かったような気になるのですが,実はまだ十分には理解できていないということ がよくあります.「HAI」という専門用語についても, 2006年の第1回のシンポ ジウムから研究発表と議論が積み重ねられてきましたが,いまだに解明されてい ないことがたくさんあります.だからこそ今年のシンポジウムにおいても, 68 件(ロング40件,ショート28件)の口頭発表,16件のデモ発表と,これまでで最 多の研究発表の申し込みがあり,また,140名を超える事前参加申し込みがあっ たのだと思います.

 いま,HAIシンポジウムも多くの研究者の認知を得て,第2フェーズへと進もう としているのではないでしょうか.基本的な問題意識の共有の時期を経て,イン タラクションの設計原理の本質的な解明や,HAI独自の技術を用いたシステムの 構築へと今後向かっていくのではないでしょうか.しかしHAIが対象とする以下 の研究領域に今後も変化はないと思います.

  1. 人間と擬人化エージェントのインタラクション
  2. 人間とロボットのインタラクション
  3. エージェントを介した人間と人間のインタラクション
また,以下のような興味深い研究課題もまだ解明されずに残されています.
  • 人間とエージェントが上手くつきあっていくにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントに飽きないようにするにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントをどのように感じるか.
  • 人間(社会)にエージェントが受け入れられるためには,どうすればよいか.
  • 人間と協調作業するエージェントは実現可能か.
  • エージェントが人間に合わせるべきか,逆に人間がエージェントに合わせるべきか.
  • エージェントを介した人間同士の豊かなコミュニケーションはどのように実現できるか.
  • 家電をエージェント化すると何が起こるか.

 さらに,研究分野としての「HAI」が学際性を有していることにも変わりはあ りません.上記の研究課題の解明のためには,工学,認知科学,社会科学などの さまざまな分野から横断的な取り組みが必要とされています.「ロボット」を設 計・構築するだけなら「ロボット工学」という研究分野だけで十分だったかもし れません.また,「エージェント」を実現するだけなら「人工知能」の知見で十 分だったかもしれません.しかし,HAIの研究の視点は,人間との「インタラク ション」にあります.つまり,人間とエージェントやロボットとの「間」や「関 係」が重要となるのです.このアプローチにより研究を推し進めていくために は,当然,これまで既存の分野で用いられた手法とは異なる,新しい方法論が必 要となるでしょう.従来の,少なからず閉塞感の漂う分野を飛び出し,新しい研 究のフロンティアを開拓しようという熱い思いをお持ちの方は,是非,HAIシン ポジウムにご参加いただき,世界に発信できる新しい研究分野の構築にご協力い ただければ幸いです.

 特に,今年のシンポジウムでは,HAI研究の本質とは何かを研究者間で問い合 い,問題意識を共有し,HAI研究の観点から未来をどのように描いていけるのか をパネル討論の形で議論する企画セッションを設けます.パネリストは,それぞ れの視座・考えに基づいて本テーマの議論に深く関わっていると判断した今回の シンポジウムで発表される研究論文を数編精選し,その研究の価値と期待の講評 を通じて,本テーマで討論される論点を提案していきます.このパネル討論で は,特にこれからHAI研究に深く携わり,主導的な力となる若い研究者の皆さん の考えが重要になってくると予想しています.パネリストは,皆さんの考えを爆 発させる導火線となる役目を担いますので,フロアからの活発な討論への参加を 期待します.

2011年12月3日


岡 夏樹 (HAIシンポジウム2011プログラム実行委員長)