HAIシンポジウム2012開催にあたって

 「ヒューマンエージェントインタラクション」をテーマの中心として掲げたシンポジウムとしては日本初,そしておそらく世界でも初めてと思われる「HAIシンポジウム」の第1回が開催されたのが2006年でした.その後,学会などにおいて「HAI」を冠するセッションが増え,広く研究者に認知されるようになってきました.また,日常生活においても,擬人化エージェントや家庭用ロボットがそれほど珍しいものではなくなりつつあります.

 専門用語や概念は,当たり前のように使われるようになると,それだけでわかったような気になるのですが,実はまだ十分には理解できていないということがよくあります.「HAI」という専門用語についても, 2006年の第1回のシンポジウムから研究発表と議論が積み重ねられてきましたが,いまだに解明されていないことがたくさんあります.だからこそ今年のシンポジウムにおいても,35件の口頭発表と,26件のデモ発表の申し込みがあり,また,130名の事前参加申し込みがあったのだと思います.

 いま,HAIシンポジウムも多くの研究者の認知を得て,第2フェーズへと進もうとしているのではないでしょうか.基本的な問題意識の共有の時期を経て,インタラクションの設計原理の本質的な解明や,HAI独自の技術を用いたシステムの構築へと今後向かっていくのではないでしょうか.しかしHAIが対象とする以下の研究領域に今後も変化はないと思います.

  1. 人間と擬人化エージェントのインタラクション
  2. 人間とロボットのインタラクション
  3. エージェントを介した人間と人間のインタラクション
また,以下のような興味深い研究課題もまだ解明されずに残されています.
  • 人間とエージェントが上手くつきあっていくにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントに飽きないようにするにはどうすればよいか.
  • 人間がエージェントをどのように感じるか.
  • 人間(社会)にエージェントが受け入れられるためには,どうすればよ いか.
  • 人間と協調作業するエージェントは実現可能か.
  • エージェントが人間に合わせるべきか,逆に人間がエージェントに合わ せるべきか.
  • エージェントを介した人間同士の豊かなコミュニケーションはどのよう に実現できるか.
  • 家電をエージェント化すると何が起こるか.

 さらに,研究分野としての「HAI」が学際性を有していることにも変わりはありません.上記の研究課題の解明のためには,工学,認知科学,社会科学などのさまざまな分野から横断的な取り組みが必要とされています.「ロボット」を設計・構築するだけなら「ロボット工学」という研究分野だけで十分だったかもしれません.また,「エージェント」を実現するだけなら「人工知能」の知見で十分だったかもしれません.しかし,HAIの研究の視点は,人間との「インタラク ション」にあります.つまり,人間とエージェントやロボットとの「間」や「関係」が重要となるのです.このアプローチにより研究を推し進めていくためには,当然,これまで既存の分野で用いられた手法とは異なる,新しい方法論が必要となるでしょう.従来の,少なからず閉塞感の漂う分野を飛び出し,新しい研究のフロンティアを開拓しようという熱い思いをお持ちの方は,是非,HAIシンポジウムにご参加いただき,世界に発信できる新しい研究分野の構築にご協力いただければ幸いです.

 特に,今年のシンポジウムでは,HAI研究の発展の基盤となる中心的課題について参加者もまじえて広く議論する場を設けたいと考え,企画セッションを設けました.口頭発表への投稿論文の中からHAI-2012で深く議論したい7件を選抜し2日目の最後のセッション(懇親会前)と3日目のセッションに配置しました.十分に長い時間35分(20分トーク+15分ディスカッション)を確保しましたので,熱い議論にぜひご参加ください.

 また,本年は,「本シンポジウムにおいて,HAIにおけるニーズを企業から提示する場を設け,翌年,それに応える研究発表を行う」という企画を立てました.この構想の下,本年は,日本を代表する企業の方々に4件のニーズ提示講演をお願いしました.本セッションは初日の15時からです.どうぞご期待ください.

2012年12月7日


岡 夏樹 (HAIシンポジウム2012プログラム実行委員長)