HAIシンポジウム2016開催にあたってのご挨拶

 来年度の科研費の申請書の中でHAIについての説明を書いていながら,HAIのAはAgentのAだけど,もうこの先,別にArtifactのAでも良くなっちゃうのかもな,と思うことがありました.なぜなら身の回りにあるちょっと電子部品が組み込まれたようなArtifact(人工物)の一部は,もうAgentと言ってもいいように事実上振る舞っているからです.それは必ずしも高度な技術によるものばかりでなく,人とのインタラクションによるものもあります.その一例が,高速道路のサービスエリアによく設置されているコーヒールンバを軽快に奏でながら,内部でコーヒーを1杯ずつ淹れる作業の様子を映像で見せるベンダーマシン.ベンダーマシンから「ここまで運転おつかれさま.今,あなたのためにおいしいコーヒー淹れてるからちょっと待っててね」と語りかけられている(と妄想している)私がいます.これはもう立派なHAIじゃないかと思います.


 実際,これからますますArtifactとAgentとの境界が曖昧になっていくと予想します.これは間違いないでしょう.であればHAI研究は何を考え,何を議論し,どこに向かっていくべきなのでしょうか?答はすぐには出ないかもしれませんし,テクノロジーの進歩に合わせて問題設定を常に更新していくべきものなのかもしれません.その一方で,HAI研究とは何かという問いには,10年前,15年前よりはずっと鮮明に答らしきものが見えてきたようにも思います.その象徴がこのHAIシンポジウムで発表される数々の研究であり,それらをみんなと議論することは何よりも楽しく,濃密な時間を与えてくれるはずです.


 話は変わりますが,このHAIシンポジウムからスピンオフした国際会議The 4th International Conference on HAI (HAI2016)が10月4〜7日にシンガポールで開催されました.3年前に札幌で開催したHAI2013からこの国際会議も少しずつ成長してきているのですが,その中でより成長したものの姿を目にすることができました.それは今日もこのシンポジウムの会場に大勢いらっしゃると思いますが,HAI2016に連動してNGHAI Workshopというワークショップを企画・参加した若いHAI研究者の成長です.詳しいことは割愛しますが,さまざまな国やバックグラウンドをもった若い人たちが30人以上はいたと思います.彼ら彼女らがいくつかのグループに分かれて,真剣にHAIのNext Generationを担い創造していくための課題について議論していました.ですからこのワークショップに参加した若い方々は,このHAIシンポジウムにもあのワークショップで発見した次の世代のHAI研究の火種をどんどん撒いていってください.AI研究は何度か寒い冬の時代を経験しましたが,HAI研究はこの若い火種がある限り常に熱さを感じ続けられるはずです.


 最後に,今年のHAIシンポジウムでは,上記の国際会議と同様にこのシンポジウムで培われてきた研究と連携を基盤としている文科省の科研費新学術領域研究(領域提案型)「認知的インタラクションデザイン学」(平成26〜30年度採択課題)とのタイアップ企画を用意しています.それは,HAIのAをAnimal(動物)としたインタラクション(人−動物インタラクション)を通して,HAI研究を普段とは違った角度,パラダイムから考えるための企画セッションです.この視点・論点の自由さがHAI研究の強みと面白さになっているはずです.みなさまの研究発表と併せてこちらの企画セッションも活発な議論となることを期待しています.


2016年12月3日


竹内勇剛 (HAIシンポジウム2016運営委員長)